タツキの物語(俊の記憶) 第3回
3章 タツキの登場(タツキ:11歳・知的障害、精神年齢・5歳)
僕が18歳になり、モジュールが完成に近づいたころ、聴覚障害の人には視覚情報と同時に振動などの体感情報もあったほうがいい。
その体感情報のチェックに向いているとヤンチャ君が紹介してくれたのが、タツキという少年だった。
知的障害があって、精神年齢は5歳くらいだと聞いた。
どういういきさつでヤンチャ君とタツキが出会ったのかはわからないけど、細かいことは気にしないでおこう。
最初タツキはヤンチャ君の後ろに隠れて出てこなかった。
僕たちを怖がってる感じだった。
僕たちもどう接したら良いかわからなくて何もできなかった。
しばらくそんな感じでぎこちなかったんだけど、タツキはヤンチャ君の言うことは素直に聞く感じに見えた。
それで、モジュールの体感情報のチェックを実際にやってもらったんだ。
タツキは振動のタイプによって、不快感を示したり、大喜びしてはしゃいだりする。
それをみて僕たちもタツキと一緒にいるのが楽しくなってきた。
タツキの反応を見ながら調整を続けていくうちに、カヨのモジュールはようやく完成が見えてきた。
振動の強さや種類をどう感じるかは人によって違うけれど、タツキの素直な反応が、僕たちにとって一番の指標になった。
そんな頃、ユウキが義足の調整で外に出ることが増えてきた。
翻訳の仕事で世界とつながっていた彼が、今度は自分の足で世界に戻ろうとしているのが嬉しかった。
ある日、ユウキが施設の裏の坂道で、段差につまずきそうになった。
僕が息をのんだ瞬間、ハルトが言った。
「……これ、僕のモジュールと連動できるかもしれない。危ない場所では足が前に出ないようにする仕組み、作れると思う。」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
ユウキの“歩く怖さ”を、僕たちの技術で減らせるかもしれない。
カヨのモジュールが完成に近づいている今、次に取り組むべきものが自然と見えてきた気がした。
ハルトの言葉を聞きながら、僕はふと思った。
ユウキだけじゃない。
これは視覚障害の人自身の歩行にも使えるんじゃないか。
見えないことで足を踏み出すタイミングを誤る危険は、ハルトがいつも抱えているものだ。
もし、危険な場所では義足や靴が“足を出さない”ようにできたら—— 歩行そのものが、もっと安全になる。
ユウキのための発想が、ハルト自身の未来にもつながる気がした。

