タツキの物語(俊の記憶) 第5回
5章 タツキの“生活の中心化”(マッサージチェア〜砂場〜泥団子〜俊の参加)
壮太に「何がしたい?」と聞かれて、
タツキは少し考えてから、廊下の奥にあるマッサージチェアを指さす。
「タツキ、ぶるぶるのやつ、やる!!」
壮太は笑ってうなずく。
「うん、いいよ。朝の遊びにちょうどいいね。」
タツキはスキップしながらマッサージチェアに向かい、勢いよくよじ登る。
「これ、タツキのすきなやつ!!」
壮太がスイッチを入れると、チェアがゆっくり振動し始める。
その瞬間—— タツキは全身で喜ぶ。
「きたーーー!! ぶるぶるーーー!!」
チェアの振動に合わせて、タツキの体が小刻みに揺れて、その揺れが楽しくて仕方ない。
壮太は横で笑いながら見守る。
「タツキ、楽しそうだね……」
タツキは振動に合わせて声を震わせながら叫ぶ。
「壮太ーーー!! タツキ、ぶるぶるのなかーーー!!」
その声が廊下に響いて、作業していたみんながふっと笑う。
サキ 「かわいいね……」
カヨ 「タツキくん、ほんとに振動好きだなぁ……」
エミ 「なんか……平和だね……」
タツキはチェアの上で揺れながら、満面の笑みで叫ぶ。
「タツキ、ぶるぶるの王さまーーー!!」
壮太は笑って、 タツキの頭をそっと撫でる。
「うん、王さまだね。」
タツキはマッサージチェアの上で、壮太にスイッチを押してもらいながら、いろんなモードを試していく。
①弱い振動
チェアが軽く震える。
タツキ 「ぶる……ぶる…… タツキのこえ、ゆれるーーー!!」
声が小刻みに震えて、タツキはそれだけで大笑いする。
壮太 「かわいい声になってるよ。」
②背中だけの振動
背中の部分が強めに揺れる。
タツキ 「うしろが、ぶるぶるーーー!! こえが……こえが…… ぶるるるるるるる!!」
声が完全に機械みたいに震えて、タツキはチェアの上で転げそうになりながら笑う。
俊 「おい、なんだその声!!」
③足だけの振動
足元がブルブルし始める。
タツキ 「あしが、ぶるぶるーーー!! こえが……あしのこえになってるーーー!!」
壮太 「足の声ってなに……?」
④強振動モード
チェア全体が大きく揺れる。
タツキ 「うわあああああああ!! タツキ、ぶるぶるのなかーーー!! こえが…… ぶるぶるぶるぶるぶるぶるーーー!!」
声が完全に震えすぎて、もはや何を言ってるかわからない。
女子たちは遠くからくすくす笑っている。
サキ 「タツキくん、楽しそうだね……」
カヨ 「朝から振動でテンションMAXなのすごい……」
タツキはしばらくの間、いろんな振動モードを試しては「ぶるぶるーーー!!」 「こえがゆれるーーー!!」と大笑いしていた。
壮太も横で笑いながら見守っていたけど、ある瞬間、タツキの動きがぴたりと止まる。
チェアはまだ振動しているのに、タツキは急に真顔になって、壮太の方を向く。
「……タツキ、もういい。」
壮太は少し驚きながらも笑う。
「飽きちゃった?」
タツキはこくんとうなずく。
「ぶるぶる、おわり。タツキ、つぎのあそびする。」
チェアの振動が止まると、タツキはすっと立ち上がって、さっきまでのテンションが嘘みたいに落ち着いている。
その切り替えの速さが、壮太にはもう慣れっこで、優しく声をかける。
「じゃあ、次は何する?」
タツキはマッサージチェアの振動に飽きて、壮太の袖をつかんで言う。
「壮太、つぎのあそびする。」
壮太はタツキの目線に合わせてしゃがみ、少し考えてから、 ゆっくりと提案する。
「タツキ…… 外で、砂で富士山を作るのはどう?」
タツキはその言葉を聞いた瞬間、目をまん丸にして固まる。
「すな……? ふじさん……?」
壮太は優しく笑ってうなずく。
「うん。昨日はごはんで作ったでしょ? 今日は砂で作ってみよう。外の砂場なら、もっと大きいのが作れるよ。」
タツキは一気に顔を輝かせる。
「おおきいの!? すなで!? ふじさんつくるーーー!!」
その声がリビングに響いて、作業していた女子たちがふっと笑う。
サキ 「タツキくん、砂の富士山かぁ……かわいいね。」
カヨ 「昨日の巨大富士山より大きくなるかもね。」
エミ 「外で遊ぶの、いいね……」
タツキはもう玄関の方へ走り出している。
「壮太ーーー!! すなのふじさんーーー!!」
壮太は笑いながら後を追う。
「待って、靴履かないと……!」
砂場に着くと、タツキは勢いよく砂をかき集めて、大きな富士山を作ろうとする。
でも—— 砂は崩れる。
何度やっても、山の形にならない。
タツキはスコップを握ったまま、眉をぎゅっと寄せて叫ぶ。
「なんでーーー!! すな、くずれるーーー!!」
スコップを投げそうな勢いで、砂をばしばし叩く。
「ふじさん、できないーーー!! タツキ、できないーーー!!」
その声は、昨日の富士山の成功体験が強かった分、余計に悔しさがにじんでいる。
壮太はすぐに近づいて、しゃがんでタツキの目線に合わせる。
「タツキ、砂はね…… 水がないと崩れちゃうんだよ。」
タツキは涙目で砂を見つめる。
「みず……?」
壮太は水道の方を指さす。
「うん。水を混ぜると、砂がくっついて、富士山が作りやすくなるんだよ。」
タツキは一瞬で顔を輝かせる。
「みずーーー!! みず、もってくる!!」
走り出そうとするタツキを、壮太がそっと止める。
「タツキ、危ないから一緒に行こう。」
タツキは壮太の手をぎゅっと握る。
「壮太、いっしょ!!」
水をバケツに入れて戻ってくると、壮太は砂に少しずつ水を混ぜていく。
「こうやってね…… 砂をぎゅっと押すと、形ができるよ。」
タツキは真剣な顔で見つめている。
壮太が手で形を整えると、砂がしっかり固まって、小さな山ができる。
タツキは目をまん丸にして叫ぶ。
「できたーーー!! すな、くっついたーーー!!」
壮太は笑ってうなずく。
「タツキもやってみよう。」
タツキは両手で砂をぎゅっと押して、少しずつ山を作り始める。
「タツキの…… すなの…… ふじさんーーー!!」
さっきまでのいらいらはどこかへ消えて、タツキはまた笑顔に戻る。
砂場でタツキが富士山を作っていると、リビングで作業していた女子たちが 「なんか外で声してるね」と言いながら見に来る。
サキ 「タツキくん、砂で富士山作ってるの?」
カヨ 「かわいい……でもちょっと怒ってる?」
エミ 「壮太くん、水持ってる……あ、調整してるんだね。」
壮太が水を混ぜて形を整えると、タツキは一瞬で機嫌を直して、また笑顔で砂をぎゅっと押し始める。
みんながその様子を見て、ふふっと笑う。
しばらくすると、タツキは突然手を止めて、砂の富士山をじーっと見つめる。
そして、スコップをぽいっと置いて言う。
「タツキ、もういい。ふじさん、おわり。」
壮太は慣れたように笑う。
「飽きちゃったんだね。」
タツキはこくんとうなずく。
「つぎのあそびする。」
その瞬間、タツキは水で湿った砂を手で丸め始める。
ぎゅっ、ぎゅっ。
泥団子ができる。
タツキ 「これ、まるいーーー!!」
ヤンチャ君はいないけど、 女子たちが近くで見ている。
サキ 「泥団子作り始めたね……」
カヨ 「タツキくん、絶対これ投げるよね……」
エミ 「壮太くん、気をつけて……」
タツキは泥団子をひとつ完成させると、壮太の方を向いてニヤッと笑う。
「壮太ーーー!! これ、ぽいする!!」
壮太 「えっ、ちょっと待って……!」
ぽすっ。
泥団子が壮太の足に当たる。
タツキは大爆笑。
「あたったーーー!!」
女子たちも笑い出す。
サキ 「壮太くん、がんばって……」
カヨ 「タツキくん、楽しそう……」
エミ 「これ、絶対みんな巻き込まれるやつ……」
壮太は苦笑しながら泥団子をひとつ作る。
「じゃあ……タツキ、いくよ。」
ぽすっ。
タツキの足に当たる。
タツキは転げまわって笑う。
「壮太ーーー!! あたったーーー!!」
その声につられて、女子たちも泥団子を作り始める。
サキ 「ちょっとだけね……」
カヨ 「軽く投げるよ……?」
エミ 「タツキくん、いくよー……!」
ぽすっ、ぽすっ、ぽすっ。
砂場が一気に笑い声で満たされる。
砂場でタツキと壮太、女子たちが 泥団子をぽすぽす投げ合っている。
笑い声が響いて、砂場はもう小さな戦場みたいになっている。
そのとき—— 俊がゆっくり歩いてくる。
「……なにやってんの?」
俊はいつもの、ちょっと気だるそうな声で言う。
サキ 「俊くん、見に来たの?」
俊 「いや……声が聞こえたから。」
俊は泥だらけのタツキを見て、少しだけ目を丸くする。
「タツキ……顔、すごいことになってるよ。」
タツキは俊を見るなり、泥団子を握って叫ぶ。
「しゅんーーー!! これ、ぽいする!!」
俊 「えっ、ちょっと待っ——」
ぽすっ。
俊の胸に泥団子が当たる。
俊は完全に固まる。
女子たちはくすくす笑う。
カヨ 「俊くん、やられたね……」
俊は胸についた泥を見て、ぽつりと言う。
「……これ、当たるとこうなるんだ。」
壮太 「俊、怒ってない?」
俊は少し考えて、泥団子をひとつ拾う。
「……別に。こういうの、やったことないし。」
タツキは目を輝かせる。
「しゅん、やる!? ぽいする!?!?」
俊は泥団子を手のひらで転がしながら、小さく笑う。
「……まあ、ちょっとだけ。」
ぽすっ。
俊が投げた泥団子が、タツキの足に当たる。
タツキは転げまわって笑う。
「しゅんーーー!! あたったーーー!!」
俊はその反応を見て、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。
「……なんか、悪くないね。」
女子たちも笑う。
サキ 「俊くん、楽しそうじゃん。」
俊 「いや……別に……」
でも、俊の口元は確かに笑っている。
壮太はその様子を見て、静かに嬉しそうにする。
泥団子戦争がしばらく続いて、砂場はもう小さな戦場みたいになっていた。
俊は泥団子を投げながら、珍しく笑っている。
壮太はタツキに軽く当てて、タツキは転げまわって笑う。
女子たちも軽く投げて、砂場は笑い声でいっぱい。
でも—— そのうちタツキが突然動きを止める。
泥団子を握ったまま、ぽつりと言う。
「タツキ、もういい。」
壮太はすぐに気づく。
「飽きちゃったんだね。」
タツキはこくんとうなずく。
「つぎのあそびする。」
その瞬間、サキがみんなの服を見て苦笑する。
「みんな……泥だらけだよ。」
カヨ 「これは……さすがに洗わないとね。」
エミ 「お風呂行こうか……?」
俊は自分の服についた泥を見て小さくため息をつく。
「……まあ、これはもう入るしかないね。」
壮太はタツキの手を取って言う。
「タツキ、お風呂行こう。泥を落とさないとね。」
タツキは嬉しそうに叫ぶ。
「おふろーーー!! 壮太といくーーー!!」
みんなが笑って、泥だらけのままぞろぞろとお風呂へ向かう。
※この施設の子どもたちは、特許や印税などそれぞれ何らかの収入源を持っている。
俊もハルトも、他の子どもたちも、生活の基盤がある程度保証されているため、
将来を考えることなく“好きなことをして過ごす”ことができる。
それが、この施設のゆるやかな自由さを支えている。
なお、子どもにしては高額な収入になることも多いため、
信頼できる大人である弁護士のヤンチャ君が財務管理を手伝っている。
みんなが泥だらけのまま、ぞろぞろと男子風呂へ向かう。
女子たちは廊下で止まる。
サキ 「じゃあ、タオルは脱衣所の棚に置いてあるから使ってね。」
カヨ 「私たちは洗濯機まわしておくよ。」
エミ 「タツキくん、壮太くんの言うことちゃんと聞くんだよ〜」
壮太 「女子はここまで! 男子は裸だから絶対入っちゃダメだよ!」
女子たち 「わかってるってば〜!」
俊 「……なんで毎回、女子はここで見送るんだろうな。」
壮太 「タツキが暴走するからだよ……」
タツキ 「おふろーーー!! タツキ、みずーーー!!」
壮太 「走らないって言ったよね……!」
男子風呂に入ると、壮太と俊は泥を落とすために体を洗い始める。
壮太 「タツキ、まず体洗おうね。 走らないよ。」
タツキ 「やだーーー!! タツキ、おふろーーー!!」
俊 「また始まった……」
壮太がタツキの背中を洗おうとしたその瞬間——
タツキは どこからか水鉄砲を取り出す。
壮太 「えっ!? タツキ、それどこから持ってきたの!?」
俊 「なんで風呂に水鉄砲あるんだよ……」
タツキは満面の笑みで構える。
「壮太ーーー!! これ、ぴゅってする!!」
びゅっ!!
壮太の胸に水が直撃する。
壮太 「うわっ……タツキ……!」
タツキは大爆笑。
「壮太ーーー!! あたったーーー!!」
俊は避けようとするが、 タツキは俊もロックオンする。
「しゅんーーー!! これ、ぴゅっする!!」
俊 「やめろって言ってるだろ——」
びゅっ!!
俊の顔に水が直撃する。
俊 「……やられた。」
壮太 「タツキ、やめようね。俊にも当てちゃダメだよ。」
タツキ 「やだーーー!! タツキ、みずーーー!!」
びゅっ!びゅっ!びゅっ!
湯気の中で水鉄砲の音が響く。
俊 「壮太、なんとかして……!」
壮太 「タツキ、ストップ!! 水鉄砲は一回だけ!!」
タツキ 「やだーーー!! タツキ、もっとするーーー!!」
俊 「……なんで俺まで巻き込まれるんだよ……」
しばらく暴れたあと、タツキは湯船にぷかーっと浮かんで言う。
「タツキ……ねむい……」
壮太はすぐに気づく。
「眠くなっちゃったんだね。じゃあ、もう出ようか。」
俊は髪を拭きながらため息をつく。
「やっと静かになった……」
タツキは湯船から壮太に抱きつくようにして出てくる。
「壮太……だっこ……」
壮太 「はいはい。すべるから気をつけてね。」
俊 「タツキ、裸で抱きつくなって……」
タツキ 「しゅんもーーー!!」
俊 「やめろって言ってるだろ……」
壮太は笑いながらタオルを取って、タツキの体を包む。
「ほら、タツキ。まずタオルで拭こうね。」
タツキはタオルに包まれたまま、壮太の胸に顔をうずめている。
「タツキ……ねむい……」
俊は自分の体を拭きながら言う。
「壮太、タツキもう限界だぞ。」
壮太 「うん、今日はいっぱい遊んだからね。」
タツキはもう半分寝ている。
壮太はタオルでタツキを包んだまま、抱きかかえて男子風呂を出る。
タツキは壮太の肩に顔をうずめて、もうほとんど目を閉じている。
「壮太……ねむい……」
壮太 「うん、もう寝ようね。お部屋に行くよ。」
俊は髪を拭きながらついてくる。
「タツキ、完全に落ちたな……」
壮太 「毎回こうだよ……暴走したあとに急に眠くなるんだ。」
俊 「まあ、子どもってそういうもんか。」
廊下に出ると、女子たちはちゃんと距離を置いて待っている。
サキ 「タツキくん、寝ちゃったんだね。」
カヨ 「壮太くん、部屋まで運ぶの大変そう……」
エミ 「タツキくん、かわいい……」
壮太は笑ってうなずく。
「大丈夫。慣れてるから。」
壮太はタツキを布団に寝かせる。
タツキはタオルに包まれたまま、壮太の手をぎゅっと握る。
「壮太……いっしょ……」
壮太はその手を優しくほどいて、布団をかけてあげる。
「タツキ、ゆっくり寝ようね。起きたらまた遊ぼう。」
タツキ 「……うん……」
そのまま、すー……っと寝息が静かに部屋に広がる。
俊はドアのところで腕を組んで見ている。
「……寝たな。」
壮太 「うん。今日は本当に全力だったからね。」
俊 「お前も大変だな……」
壮太 「でも、こうやって寝顔を見ると全部どうでもよくなるんだよ。」
俊は少し笑う。
「……まあ、わかる気がする。」
こんな感じで、毎日がタツキ中心になったけど、笑いが絶えなくなった。
気づいたら僕は施設の寮生みんなと仲良くなっていた。
その日は、朝からタツキがそわそわしていた。
「やんちゃーーー!! くるーーー!!」
壮太 「今日は来る日だもんね。でも走らないよ。」
俊 「絶対走るだろ……」
そして、ヤンチャ君が施設に入ってきた瞬間——
タツキのスイッチが爆発する。
「やんちゃーーー!!!!!」
裸足のまま廊下を全力疾走。
壮太 「タツキ!! 走らないって言ったよね!!」
俊 「もう無理だろ……」
ヤンチャ君は笑いながら両手を広げる。
「はいはい、タツキストップ〜!」
タツキは勢いのままヤンチャ君に飛び込む。
「やんちゃーーー!! タツキ、きたーーー!!」
ヤンチャ君 「おう、来たな。今日は元気だな〜」
壮太 「“今日は”じゃなくて“いつも”だよ……」
俊 「いや、今日はいつもの3倍くらいだぞ……」
「やんちゃーーー!! みずーーー!!」
びゅっ!!(水鉄砲)
ヤンチャ君 「おいおい、俺にも撃つのかよ!」
俊 「やめろって言ってるだろ!!」
壮太 「タツキ、今日は本当にすごい……」
俊 「なんであんなにテンション上がるんだ……」
壮太 「ヤンチャ君が来る日はいつもこうだよ……」
俊「タツキはヤンチャ君が大好きなんだな。まだ幼いのに親から育児放棄されてここにきたみたいだから、大人に甘えたいのかもな」
タツキははしゃぎすぎて、しばらくしたら眠いといいだした。
壮太はタツキを抱っこしながら、俊の言葉に静かにうなずく。
壮太 「そうだね…… タツキ、甘えたいんだよね。」
タツキは壮太の胸に顔をうずめる。
「壮太……いっしょ……」
俊は少し笑う。
「ほらな。こういうところが“まだ幼い”って感じなんだよ。」
ヤンチャ君はタオルを肩にかけながら言う。
「甘えたいなら甘えさせてやればいいんだよ。ここはそういう場所だろ?」
壮太 「うん。タツキが安心できるなら、それでいい。」
俊 「……まあ、俺も嫌いじゃないけどな。」
俊が言ったあと、壮太はタツキを抱っこしながら静かに答える。
壮太 「うん……タツキ、甘えたいんだよね。でも、甘えていいんだよ。ここはそういう場所だから。」
俊は少し驚く。
「……お前、10歳だよな?」
壮太 「うん。でも、タツキが安心してくれたらそれでいいんだ。」
俊は笑う。
「……なんか、お前のほうが大人みたいだな。」
壮太 「そんなことないよ。僕もタツキと遊ぶの好きだし。」
タツキは壮太の胸で寝息を立てている。
俊 「……まあ、こういうのも悪くないな。」
この空気がこの施設の良さでもある。
俊 「でも、裸で出るのは困るよな。精神年齢は5歳でも身体は大人に近づいてる。」
俊はタツキの身体の成長を“現実的に”見ている。
そしてこの言葉は、タツキの発達のズレを理解している証拠。
俊はただ困っているだけじゃなくて、タツキの背景と発達をちゃんと見ている。
ここが俊の優しさ。
壮太 「うん……困るけど、タツキは悪気ないんだよ。まだ“裸はダメ”っていう感覚が育ってないんだ。」
俊 「まあ、そうだよな…… 身体はもう子どもじゃないのに、心はまだ小さいままだから。」
ヤンチャ君は笑いながらタツキの頭を撫でる。
「だからこそ、俺たちが守ってやるんだよ。タツキは安心していい。」
タツキは壮太の胸に顔をうずめている。
「壮太……ねむい……」
俊 「……こういうところが、まだ5歳なんだよな。」
壮太 「うん。でも、それでいいんだよ。」
俊は机に向かって、ハルトとカヨと一緒に新しい回路を組んでいる。
ハルト 「俊くん、ここの抵抗値もう少し下げたほうがいいかも。」
俊 「うん、そうだな。カヨ、図面のここ——」
そのとき、廊下から声がする。
「しゅんーーー!!」
俊 「……来たな。」
タツキが裸で走ってくる。
壮太 「タツキ、走らないって言ったよね!!」
俊はため息をつきながらも、工具をそっと置く。
「ハルト、ちょっと待ってて。タツキ優先。」
ハルト 「うん、わかってる。」
カヨ 「俊くん、行ってあげて。」
タツキは勢いよく俊に抱きつく。
「しゅんーーー!! タツキ、きたーーー!!」
俊 「はいはい……来たな。ほら、タオル巻けって……」
ヤンチャ君がタオルを持って近づく。
「俊、仕事中でもタツキ優先だな。」
俊 「当たり前だろ。こいつは俺の大切な家族なんだから。」
タツキ 「しゅんーーー!! だいすきーーー!!」
俊 「……はいはい。」
そして俊は、タツキが落ち着くまでそばにいて、そのあと静かに机に戻る。
タツキが落ち着いて寝息を立て始めると、俊はそっと席に戻る。
ハルト 「俊くん、戻った?」
俊 「うん。 タツキが寝たから、今なら集中できる。」
カヨ 「俊くんって、すごいよね。発明もできるし、タツキのことも見てるし。」
俊 「……まあ、どっちも大事だからな。」
ヤンチャ君 「そういうところが、タツキが懐く理由だよ。」
俊は少し照れたように笑う。
「……そうかもな。」
翌日の午後、俊はハルトとカヨと一緒に発明の作業をしていた。
そこへタツキが勢いよく突撃してきた。
タツキが俊の机に突撃して、工具を散らかしてしまう。
壮太 「タツキ、そこはダメだよ!俊くん仕事中なんだから!」
タツキ 「しゅんーーー!! タツキ、あそぶーーー!!」
俊は散らかった工具を拾いながらため息をつく。
「……おい、タツキ。そこはあぶないから触るなって言ってるだろ。」
タツキは悪びれず笑う。
「しゅんーーー!! だいすきーーー!!」
俊は一瞬だけ困った顔をして、そのあとふっと笑う。
「……タツキってなんか憎めないんだよな~」
壮太 「俊くん、優しいね。」
ヤンチャ君 「お前、発明で何百万も稼いでるのに、タツキが来たら全部止めるよな。」
俊 「そりゃそうだろ。こいつはまだ5歳なんだよ。放っとけるわけないだろ。」
タツキは俊の腕にしがみついている。
「しゅんーーー!! タツキ、ねむいーーー!!」
俊 「ほらな。 こういうところが憎めないんだよ。」

