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2026/08/18

タツキの物語(俊の記憶) 第7回

7章 翌朝の静けさ(発熱〜病院〜別れ)

朝の食堂は、昨日の片づけのおかげで綺麗になっている。

みんながそれぞれの席に座り始める。

壮太(10)が最初に気づく。

「……あれ? タツキ、来てない。」

俊(18)はパンをかじりながら眉を上げる。

「珍しいな。いつも一番に走ってくるのに。」

エミ(14) 「昨日、すごく暴れたもんね……疲れちゃったのかな。」

サキ(17) 「寝るとき、完全に電池切れてたよね。」

ハルト(16) 「音がしない……まだ寝てるのかも。」

カヨ(14) 「タツキくんがいない朝って、なんか静か……」

ヤンチャ君(24)はコーヒーを飲みながら言う。

「まあ、騒いだ翌朝はよくあるよ。全力で暴れて、全力で寝る。タツキの“翌朝ルール”だ。」

俊 「昨日のあれだけ暴れたら、そりゃ寝るよな……」

壮太は少し心配そうに立ち上がる。

「タツキ、起こしてこようか?」

ヤンチャ君 「いや、いい。今日はゆっくり寝かせてやれ。誕生日の翌朝くらい、好きにさせてやろう。」

俊 「そうだな。 あいつは寝てるときが一番かわいいし。」

エミ 「でも、起きたら絶対お腹すいてるよね。」

サキ 「うん。 起きた瞬間『タツキ、たべるーーー!!』って言うよ。」

みんなが笑う。

食堂は静かだけど、その静けさは“心配”じゃなくて“余韻”。

昨日の騒ぎが、まだ部屋のどこかに残っているような空気。

 

「タツキ、昨日すごく楽しかったんだね…… 起きたら、またみんなでごはん食べよう。」

俊 「起きたら絶対走ってくるぞ。 『しゅんーーー!!タツキ、おきたーーー!!』ってな。」

ヤンチャ君 「そのときは、誰か捕まえろよ。俺はコーヒー飲んでるからな。」

みんな笑う。

 

午前中はまだ「寝坊かな?」で済んでいた。

でも、昼になってもタツキの姿が見えない。

壮太(10)が最初に気づく。

「……タツキ、まだ来ない。」

俊(18)はスプーンを置く。

「さすがに珍しいな。あいつ、いつも昼前には絶対起きるのに。」

エミ(14) 「昨日、すごく暴れたから……疲れちゃったのかな。」

サキ(17) 「でも、昼まで寝るのはタツキくんにしては長いよね。」

ハルト(16) 「音がしない……部屋、静かだね。」

カヨ(14) 「なんか……心配になってきた。」

ヤンチャ君(24)は眉を寄せる。

「……様子を見に行こう。誕生日の翌日は疲れてることもあるけど、昼まで起きないのは変だ。」

俊 「俺が行く。」

壮太 「僕も行く。」

 

廊下は静か。昨日の騒ぎが嘘みたい。

俊がドアの前に立つ。壮太がそっとノブに手をかける。

「タツキ、入るよ……?」

ゆっくりドアを開ける。

屋の中は薄暗い。タツキは布団の中で丸まっている。

顔が赤い。呼吸が浅い。目が半分しか開いていない。

壮太 「タツキ……?」

タツキ 「……壮太…… タツキ……ねむい……」

俊はすぐに膝をつく。

「おい……どうした。昨日の疲れだけじゃないな……」

タツキは俊の服を弱く掴む。

「しゅん…… タツキ……あつい……」

俊 「熱か……」

壮太は慌ててタオルを持ってくる。

「タツキ、汗いっぱい出てる……」

俊はタツキの額に手を当てる。

「……熱い。 熱出してる。」

ヤンチャ君が後ろから来る。

「誕生日で暴れすぎたのもあるが…… これは“ただの疲れ”じゃない。

施設の職員に伝えた方がいい。」

 

エミ 「タツキくん……大丈夫かな……」

サキ 「昨日あんなに楽しそうだったのに……」

ハルト 「声が弱い……心配だね。」

カヨ 「どうしよう……」

俊はタツキの手を握りながら言う。

「大丈夫だ。俺たちがいる。」

タツキ 「……しゅん…… タツキ……ねむい……」

俊 「寝てていい。俺たちがそばにいるからな。」

俊はすぐに判断する。

「これは……ただの疲れじゃない。ヤンチャさん、医者呼んでくれ。」

ヤンチャ君は即座に動く。

「わかった。すぐ連絡する。」

10分ほどで、施設の嘱託医が駆けつける。

みんなは廊下で緊張して待つ。

医者 「熱が高いね……呼吸も浅い。昨日の疲労もあるが、これは“発熱性の急性症状”だ。病院で検査したほうがいい。」

俊 「……病院、行くのか。」

医者 「念のためだよ。子どもは急に悪くなることがあるからね。」

壮太は不安そうにタツキの手を握る。

「タツキ……大丈夫だよ……」

タツキ 「……そーた…… タツキ……ねむい……」

 

医者 「俊くん、抱き上げてあげて。そのまま担架に乗せよう。」

俊 「わかった。」

俊はタツキをそっと抱き上げる。

タツキは弱い力で俊の服を掴む。

「……しゅん…… タツキ……いきたくない……」

俊は優しく答える。

「大丈夫だ。俺が一緒に行くからな。」

壮太 「タツキ、怖くないよ……」

エミ 「タツキくん……がんばって……」

サキ 「すぐ戻れるからね……」

ハルト 「声が弱い……心配だね……」

カヨ 「昨日あんなに元気だったのに……」

ヤンチャ君 「よし、みんな。落ち着け。タツキは強い子だ。」

 

俊がタツキの手を握り続ける。

壮太は反対側でタオルを持っている。

タツキ 「……しゅん…… タツキ……ねむい……」

俊 「寝てていい。すぐ着くからな。」

車の揺れに合わせて、タツキの呼吸が小さく上下する。

壮太 「タツキ……がんばって……」

医者 「検査に入る。俊くんと壮太くんは待合室で待っていて。」

俊 「わかった。」

壮太 「タツキ……すぐ戻ってきてね……」

タツキは担架の上で、 薄く目を開けて俊を見る。

「……しゅん…… タツキ……くるしい……」

俊は胸が締めつけられるような顔で答える。

「大丈夫だ。絶対に良くなる。俺がここにいる。」

そしてタツキは検査室へ運ばれていく。

 

病院の白い部屋。

昨日の青と白のクリームの色はもうない。

代わりに、静けさと機械の音だけがある。

タツキはベッドに横たわり、点滴の管が細い腕に繋がれている。

呼吸は浅く、目は半分しか開かない。

俊(18)はずっと手を握っている。

壮太(10)は反対側で泣きそうな顔をしている。

他のみんなも病院にやってきた。

エミ(14) 「タツキくん……富士山、また作ろうね……」

サキ(17) 「昨日あんなに笑ってたのに……」

ハルト(16) 「声が……弱い……」

カヨ(14) 「タツキくん……タツキくんが作った富士山の写真だよ……」

ヤンチャ君(24) 「みんな、落ち着け。タツキは……聞こえてる。」

医者は静かに言う。

「……ごめんなさい。病気の進行が早すぎます。もう……できることはありません。」

部屋の空気が止まる。

俊はタツキの手を強く握る。

「おい……タツキ…… 昨日、誕生日だっただろ…… また来年もやるんだよ…… 聞いてるか……?」

タツキはゆっくり目を開ける。

「……しゅん…… タツキ……ねむい……」

壮太は涙をこらえながら言う。

「タツキ……起きてよ…… 一緒にごはん食べようよ……」

タツキ 「……壮太…… タツキ……いきたい…… でも……ねむい……」

エミは口を押さえて泣く。

サキは肩を震わせる。

ハルトは静かに涙を流す。

カヨは手を握りしめる。

ヤンチャ君は目を閉じて深く息を吸う。

 

タツキは俊の手を弱く握る。

「……しゅん…… タツキ……みんなといっしょ……たのしい……みんな……だいすき……」

俊 「……ああ。俺もだよ…… タツキ……」

タツキは壮太の方を向く。

「……そーた…… いっしょ……ありがと……」

壮太 「うん……ずっと一緒だよ……」

タツキは小さく息を吸う。

「……みんな…… ありがと……」

そして—— そのまま、息を吐いたあと、もう吸わなかった。

機械の音が静かに止まる。

医者 「……ご臨終です。」

 

俊はタツキの手を離せない。

壮太は声を出して泣く。

エミは肩を震わせる。

サキは涙を拭いながらタツキの髪を撫でる。

ハルトは静かに手を合わせる。

カヨはタツキの足に触れて泣く。

ヤンチャ君は目を閉じて深く頭を下げる。

昨日の笑い声が、遠い記憶みたいに感じられる。

でも、みんなの胸の中には、昨日の富士山ケーキの青と白が、まだ静かに残っている。