タツキの物語(俊の記憶) 第7回
7章 翌朝の静けさ(発熱〜病院〜別れ)
朝の食堂は、昨日の片づけのおかげで綺麗になっている。
みんながそれぞれの席に座り始める。
壮太(10)が最初に気づく。
「……あれ? タツキ、来てない。」
俊(18)はパンをかじりながら眉を上げる。
「珍しいな。いつも一番に走ってくるのに。」
エミ(14) 「昨日、すごく暴れたもんね……疲れちゃったのかな。」
サキ(17) 「寝るとき、完全に電池切れてたよね。」
ハルト(16) 「音がしない……まだ寝てるのかも。」
カヨ(14) 「タツキくんがいない朝って、なんか静か……」
ヤンチャ君(24)はコーヒーを飲みながら言う。
「まあ、騒いだ翌朝はよくあるよ。全力で暴れて、全力で寝る。タツキの“翌朝ルール”だ。」
俊 「昨日のあれだけ暴れたら、そりゃ寝るよな……」
壮太は少し心配そうに立ち上がる。
「タツキ、起こしてこようか?」
ヤンチャ君 「いや、いい。今日はゆっくり寝かせてやれ。誕生日の翌朝くらい、好きにさせてやろう。」
俊 「そうだな。 あいつは寝てるときが一番かわいいし。」
エミ 「でも、起きたら絶対お腹すいてるよね。」
サキ 「うん。 起きた瞬間『タツキ、たべるーーー!!』って言うよ。」
みんなが笑う。
食堂は静かだけど、その静けさは“心配”じゃなくて“余韻”。
昨日の騒ぎが、まだ部屋のどこかに残っているような空気。
「タツキ、昨日すごく楽しかったんだね…… 起きたら、またみんなでごはん食べよう。」
俊 「起きたら絶対走ってくるぞ。 『しゅんーーー!!タツキ、おきたーーー!!』ってな。」
ヤンチャ君 「そのときは、誰か捕まえろよ。俺はコーヒー飲んでるからな。」
みんな笑う。
午前中はまだ「寝坊かな?」で済んでいた。
でも、昼になってもタツキの姿が見えない。
壮太(10)が最初に気づく。
「……タツキ、まだ来ない。」
俊(18)はスプーンを置く。
「さすがに珍しいな。あいつ、いつも昼前には絶対起きるのに。」
エミ(14) 「昨日、すごく暴れたから……疲れちゃったのかな。」
サキ(17) 「でも、昼まで寝るのはタツキくんにしては長いよね。」
ハルト(16) 「音がしない……部屋、静かだね。」
カヨ(14) 「なんか……心配になってきた。」
ヤンチャ君(24)は眉を寄せる。
「……様子を見に行こう。誕生日の翌日は疲れてることもあるけど、昼まで起きないのは変だ。」
俊 「俺が行く。」
壮太 「僕も行く。」
廊下は静か。昨日の騒ぎが嘘みたい。
俊がドアの前に立つ。壮太がそっとノブに手をかける。
「タツキ、入るよ……?」
ゆっくりドアを開ける。
屋の中は薄暗い。タツキは布団の中で丸まっている。
顔が赤い。呼吸が浅い。目が半分しか開いていない。
壮太 「タツキ……?」
タツキ 「……壮太…… タツキ……ねむい……」
俊はすぐに膝をつく。
「おい……どうした。昨日の疲れだけじゃないな……」
タツキは俊の服を弱く掴む。
「しゅん…… タツキ……あつい……」
俊 「熱か……」
壮太は慌ててタオルを持ってくる。
「タツキ、汗いっぱい出てる……」
俊はタツキの額に手を当てる。
「……熱い。 熱出してる。」
ヤンチャ君が後ろから来る。
「誕生日で暴れすぎたのもあるが…… これは“ただの疲れ”じゃない。
施設の職員に伝えた方がいい。」
エミ 「タツキくん……大丈夫かな……」
サキ 「昨日あんなに楽しそうだったのに……」
ハルト 「声が弱い……心配だね。」
カヨ 「どうしよう……」
俊はタツキの手を握りながら言う。
「大丈夫だ。俺たちがいる。」
タツキ 「……しゅん…… タツキ……ねむい……」
俊 「寝てていい。俺たちがそばにいるからな。」
俊はすぐに判断する。
「これは……ただの疲れじゃない。ヤンチャさん、医者呼んでくれ。」
ヤンチャ君は即座に動く。
「わかった。すぐ連絡する。」
10分ほどで、施設の嘱託医が駆けつける。
みんなは廊下で緊張して待つ。
医者 「熱が高いね……呼吸も浅い。昨日の疲労もあるが、これは“発熱性の急性症状”だ。病院で検査したほうがいい。」
俊 「……病院、行くのか。」
医者 「念のためだよ。子どもは急に悪くなることがあるからね。」
壮太は不安そうにタツキの手を握る。
「タツキ……大丈夫だよ……」
タツキ 「……そーた…… タツキ……ねむい……」
医者 「俊くん、抱き上げてあげて。そのまま担架に乗せよう。」
俊 「わかった。」
俊はタツキをそっと抱き上げる。
タツキは弱い力で俊の服を掴む。
「……しゅん…… タツキ……いきたくない……」
俊は優しく答える。
「大丈夫だ。俺が一緒に行くからな。」
壮太 「タツキ、怖くないよ……」
エミ 「タツキくん……がんばって……」
サキ 「すぐ戻れるからね……」
ハルト 「声が弱い……心配だね……」
カヨ 「昨日あんなに元気だったのに……」
ヤンチャ君 「よし、みんな。落ち着け。タツキは強い子だ。」
俊がタツキの手を握り続ける。
壮太は反対側でタオルを持っている。
タツキ 「……しゅん…… タツキ……ねむい……」
俊 「寝てていい。すぐ着くからな。」
車の揺れに合わせて、タツキの呼吸が小さく上下する。
壮太 「タツキ……がんばって……」
医者 「検査に入る。俊くんと壮太くんは待合室で待っていて。」
俊 「わかった。」
壮太 「タツキ……すぐ戻ってきてね……」
タツキは担架の上で、 薄く目を開けて俊を見る。
「……しゅん…… タツキ……くるしい……」
俊は胸が締めつけられるような顔で答える。
「大丈夫だ。絶対に良くなる。俺がここにいる。」
そしてタツキは検査室へ運ばれていく。
病院の白い部屋。
昨日の青と白のクリームの色はもうない。
代わりに、静けさと機械の音だけがある。
タツキはベッドに横たわり、点滴の管が細い腕に繋がれている。
呼吸は浅く、目は半分しか開かない。
俊(18)はずっと手を握っている。
壮太(10)は反対側で泣きそうな顔をしている。
他のみんなも病院にやってきた。
エミ(14) 「タツキくん……富士山、また作ろうね……」
サキ(17) 「昨日あんなに笑ってたのに……」
ハルト(16) 「声が……弱い……」
カヨ(14) 「タツキくん……タツキくんが作った富士山の写真だよ……」
ヤンチャ君(24) 「みんな、落ち着け。タツキは……聞こえてる。」
医者は静かに言う。
「……ごめんなさい。病気の進行が早すぎます。もう……できることはありません。」
部屋の空気が止まる。
俊はタツキの手を強く握る。
「おい……タツキ…… 昨日、誕生日だっただろ…… また来年もやるんだよ…… 聞いてるか……?」
タツキはゆっくり目を開ける。
「……しゅん…… タツキ……ねむい……」
壮太は涙をこらえながら言う。
「タツキ……起きてよ…… 一緒にごはん食べようよ……」
タツキ 「……壮太…… タツキ……いきたい…… でも……ねむい……」
エミは口を押さえて泣く。
サキは肩を震わせる。
ハルトは静かに涙を流す。
カヨは手を握りしめる。
ヤンチャ君は目を閉じて深く息を吸う。
タツキは俊の手を弱く握る。
「……しゅん…… タツキ……みんなといっしょ……たのしい……みんな……だいすき……」
俊 「……ああ。俺もだよ…… タツキ……」
タツキは壮太の方を向く。
「……そーた…… いっしょ……ありがと……」
壮太 「うん……ずっと一緒だよ……」
タツキは小さく息を吸う。
「……みんな…… ありがと……」
そして—— そのまま、息を吐いたあと、もう吸わなかった。
機械の音が静かに止まる。
医者 「……ご臨終です。」
俊はタツキの手を離せない。
壮太は声を出して泣く。
エミは肩を震わせる。
サキは涙を拭いながらタツキの髪を撫でる。
ハルトは静かに手を合わせる。
カヨはタツキの足に触れて泣く。
ヤンチャ君は目を閉じて深く頭を下げる。
昨日の笑い声が、遠い記憶みたいに感じられる。
でも、みんなの胸の中には、昨日の富士山ケーキの青と白が、まだ静かに残っている。

